仁風閣(鳥取県)

 鳥取県鳥取市にある仁風閣は、明治の趣を今に伝える優美な洋風建築で、久松山の麓に静かにたたずんでいます。この建物は、旧鳥取藩主池田家の居館として明治時代に建てられたもので、白亜の外壁と瀟洒なデザインが、訪れる人々に当時の近代建築の洗練を感じさせてくれます。屋根は日本瓦葺きで一部を落ち着いた緑青色の銅板で覆われ、白い壁面と美しい対比をなしており、洋風でありながらも周囲の自然と見事に調和しています。
 館内には、かつて皇太子時代の大正天皇が宿泊されたことでも知られる格式ある部屋が複数残されており、当時の貴族の暮らしを今に伝えています。各部屋には精緻な装飾や調度が施され、階段の手すりや天井の意匠、光を柔らかく取り込む窓のデザインなど、細部にまで上品さが漂います。周囲を取り巻く庭園もまた見事で、四季折々の彩りが建物と一体となって訪れる人の目を楽しませてくれます。
 現在、仁風閣本館は令和5年(2023年)12月29日から文化財としての保存修理工事のため、約5年間の予定で休館しています。しかしながら、建物の後方に広がる庭園は引き続き公開されており、中でも宝隆院庭園は静かで落ち着いた雰囲気を保ち、心穏やかな時間を過ごすのに最適な場所です。庭園内には、茶室「宝扇庵」もあり、和の趣を感じさせる空間が広がっています。
 鳥取市中心部からもアクセスしやすく、鳥取城跡や久松公園と隣接していることから、自然や歴史を感じながらゆったりと散策することができます。春には桜が咲き誇り、秋には紅葉が庭を彩り、訪れるたびに異なる景色に出会えるこの場所は、修理期間中であっても静かな魅力にあふれています。仁風閣本館の再公開が待ち遠しい一方で、今しか味わえない庭園の落ち着きもまた、訪れる価値のある一時を提供してくれることでしょう。

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