島根県松江市にある湯閼伽の井戸(ゆあかのいど)、またの名を「恋来井戸(こいこいのいど)」と呼ばれるこの場所は、静かな温泉街の一角にたたずむ小さな清水の湧き出る井戸です。玉造温泉街の中でも、訪れた人が足を止めてその水面をのぞき込みたくなるような、不思議な魅力をたたえています。井戸の周囲には木々が柔らかな木陰を作り、石で囲まれた口元には清らかな水が絶え間なく湧き出しており、自然の恵みを肌で感じられる空間となっています。
この井戸の名にある「湯閼伽」とは、仏教の儀式で使われる清めの水を指し、かつては玉作湯神社にお供えする水としても大切に扱われてきました。現在でも井戸のそばには、神社の参道へと続く道があり、訪れた人々が手を合わせてから神前へ向かう姿が見られます。その一方で、「恋来井戸」という呼び名からもわかるように、恋愛にまつわる願いを込めて訪れる方も多く、願い事を書いた紙を水に浮かべると叶うとされる「願い札」の風習も人々の間で親しまれています。水に浮かんだ文字がゆっくりとにじむ様子を見ながら、誰もが心静かに思いを込めて見守ります。
また、朝の散歩がてら立ち寄る方や、夕暮れ時に湯上がりの涼を求めて訪れる方など、時間帯によって違った風情が感じられるのも、この井戸ならではの魅力です。特に春には桜、秋には紅葉が周囲を彩り、四季折々の景色が優しく心を癒やしてくれます。近くにある玉作湯神社とともに歩いて回ると、心が清められるような落ち着いた時間を過ごすことができるでしょう。
松江市の玉造温泉を訪れる際には、ぜひこの湯閼伽の井戸に立ち寄ってみてください。ささやかながらも、心に残るひとときを与えてくれる静かな場所です。目立つ施設ではありませんが、水音と風の音だけが響くその空間に身を置くと、日常の喧騒を忘れて、そっと願いを託したくなるような気持ちになります。
湯閼伽の井戸(恋来井戸)(島根県)

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