柳川(福岡県)

 福岡県南部に位置する柳川市は、かつての城下町の風情を今に伝える、美しい水の都です。市内を縦横に走る掘割には、今もなお水がたたえられ、そこをゆったりと進むどんこ舟が訪れる人々を静かな旅へと誘います。舟に揺られながら眺める柳川の町並みは、陸から見るのとは異なり、まるで時が止まったかのような趣が感じられます。白壁の土蔵や石垣、緑濃い木々が水面に映り込み、移ろう季節とともに姿を変える景色は、見る者の心を和ませてくれます。
 春になると掘り沿いに咲く枝垂れ桜が水面に淡いピンクの影を落とし、あたり一面が花のトンネルに包まれます。桜が舞い落ちる中を舟が進む情景は、訪れた人々にとって忘れがたい思い出となるでしょう。夏には鮮やかな紫陽花、秋には紅葉が彩りを添え、冬の静寂には凛とした空気が街に深みを与えます。どの季節に訪れても、それぞれの美しさに出会えるのが柳川の魅力です。
 この街は、詩人・北原白秋の生まれ故郷としても知られ、彼の作品には柳川の風景が随所に息づいています。白秋の旧居や記念館では、彼の生涯や詩の世界に触れることができ、文学を愛する方にとっては特に心惹かれる場所となっています。
 また、柳川に来たならばぜひ味わっていただきたいのが、地元の名物料理「うなぎのせいろ蒸し」です。ふっくらと蒸し上げられた鰻は、ほんのり甘く香ばしい秘伝のタレと絡み合い、口に運ぶたびに豊かな味わいが広がります。もち米の上に重ねられたこの一品は、食べごたえもあり、旅の疲れを癒すごちそうとして長く愛されています。
 柳川市は、その落ち着いた佇まいや豊かな自然、そして文化の薫りが調和する特別な場所です。水と共に生きるこの町のゆったりとした時間に身をゆだねながら、訪れる人それぞれが、自分なりの柳川を見つけていただけることでしょう。