広島県呉市にある大和波止場は、呉港の南側に突き出た長方形の突堤で、大和ミュージアムのすぐ南に位置しています。ここは一見すると普通の公園のように見えますが、実際に足を運んでみると、その場所に込められた工夫や意図が徐々に感じられてきます。特に波止場の一角に設けられた巨大な板張りの空間は、まるで船のような形をしていて、その輪郭や張り分けられた板の配置が、ただのデザインではないことに気付かされます。これはかつて呉で建造された世界最大級の戦艦「大和」の前部の左半分を実物大で再現したものなのです。その全長はおよそ130メートルにも及び、甲板の形状や砲塔の位置までが視覚的にわかるように設けられており、そこに立って海を眺めていると、まるで艦橋の上にいるような錯覚を覚えます。
波止場の入口付近には、深海潜水艇「しんかい」が屋外展示されており、その隣の少し高台になった場所から全体を見渡すことができます。上から見下ろすと、板張りの甲板がまさしく船体の形に沿って整えられているのが分かり、デッキ部分の仕上げも細かく、想像力を膨らませる要素がふんだんに散りばめられています。木製の床には、戦艦に搭載されていた主砲や対空砲の位置を示すしるしがあり、かつてこの地でどれほどのスケールの艦艇が造られていたのかという感覚を、実際に自分の足で歩きながら体感することができます。
先端まで歩みを進めると、舳先を模した部分には錨が置かれ、そこからは呉港の独特な景色が広がります。造船所のクレーンが立ち並ぶ姿は圧倒的で、建造中の巨大な船体が見えることもあり、ここならではの光景に出会えるかもしれません。また、自衛隊の艦艇やフェリーが行き交う様子も日常的に見られ、海の町ならではの躍動感を感じさせます。
さらに波止場の一角には芝生の広場があり、そこにはユーモラスで写実的な犬の彫像がいくつも配置されています。これらは「せんとくん」の作者として知られる彫刻家・籔内佐斗司による作品で、訪れる人々の目を引いています。写真を撮る人々の姿も多く、特に家族連れには好評のようです。そして波止場の一角には「大和の時鐘」が設置されており、二人で鳴らすと願いが叶うとされることから、恋人たちの間では人気のスポットとなっています。夕暮れ時には港に沈む太陽の光が波止場をやさしく染め上げ、訪れた人々に忘れがたい時間を与えてくれます。
大和波止場(広島県)

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