山高神代桜(山梨県)

 山梨県北杜市武川町にある山高神代桜(やまたかじんだいざくら)は、日本で最も古い桜のひとつとして知られています。この桜は、実相寺という由緒あるお寺の境内に立っており、その存在はまるで悠久の時を超えてきたかのような風格を漂わせています。推定樹齢はなんと2000年ともいわれ、古代からこの地に根を下ろし、多くの人々を見守ってきました。
 その名に「神代」とあるとおり、神話の時代を思わせるほどの長い歴史をもち、伝説では、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の際に植えたとも、または弘法大師が手植えしたとも語り継がれています。実際には奈良時代以前から存在していたと考えられ、桜の中でも特に珍しいエドヒガン種に属するこの巨木は、国の天然記念物にも指定されています。日本全国の桜のルーツをたどると、ここ山高神代桜に行き着くとされることもあり、多くの植物学者の注目を集めてきました。
 春になると、まだ肌寒さの残る3月下旬から4月上旬にかけて、淡いピンクの花が一斉に咲き誇ります。老木でありながら、毎年力強く花を咲かせる姿はまさに生命の奇跡ともいえるもので、多くの人がその姿に感動し、遠方からも訪れるほどです。背景には南アルプスの雄大な山々がそびえ立ち、青空と雪山、そして咲き誇る桜との調和は、絵画のような美しさを見せてくれます。
 実相寺の境内には、山高神代桜だけでなく、後に植えられた若い桜の木々もあり、古木と新しい命との対比を楽しむことができます。また、桜の周囲には保護のための支柱が丁寧に施され、地域の人々がこの貴重な存在を大切に守ってきたことが感じられます。訪れる人々も皆、自然とその場の静けさに心を委ね、神聖な雰囲気の中で、ただひたすらに桜の美しさに見入る時間を過ごしています。
 この場所を訪れることで、単なる花見では味わえない、日本人が古くから大切にしてきた「桜に込められた想い」に触れることができるでしょう。北杜市のこの地に立ち、2000年の時を超えて咲き続ける一輪一輪の花びらを見つめれば、自然と心が洗われるような感覚になるはずです。

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