愛知県常滑市に位置する「やきもの散歩道」は、陶磁器の息吹が今なお感じられる町歩きスポットです。この地域は、日本六古窯のひとつに数えられる常滑焼の産地として古くから知られており、平安時代末期にはすでに窯業が始まっていたと伝えられています。中世には大壺やかめなどの大型陶器が多く作られ、室町時代から江戸時代にかけては生活用品として全国へと出荷されていきました。やがて明治以降になると、常滑焼は急須や植木鉢などより多様な製品を生み出し、全国的な評価を得るようになりました。
現在も常滑市の町並みには、その長い陶器づくりの歴史が色濃く残されており、「やきもの散歩道」を歩くことで、まるで時代をさかのぼるような感覚を味わえます。道沿いには、黒く燻された煙突が立ち並ぶ登窯跡や、赤レンガの煙突、土管や焼酎瓶で築かれた独特の塀など、かつての陶工たちの生活の痕跡が残されています。こうした建物や構造物は、見た目に美しいだけでなく、日常の中に溶け込んでいたやきもの文化を静かに物語っています。
また、散策ルートには、昔ながらの工房や窯元が点在しており、職人たちが手仕事で陶器を作り続けている様子を見ることができる場所もあります。タイミングが合えば、実際に作陶の様子を見学したり、絵付けやろくろ体験に挑戦することも可能です。加えて、町中には個性的なカフェやギャラリーが点在し、常滑焼の作品を購入できる店舗も多く、散策そのものが創作の旅のように感じられることでしょう。
「やきもの散歩道」は、単なる観光地ではなく、千年を超える陶器づくりの記憶が今も静かに息づく場所です。常滑市を訪れるなら、この町の道をゆっくりと歩きながら、土と火が織りなす手仕事の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。きっと、そこにしかない時間が流れていることに気づくはずです。
やきもの散歩道(愛知県)

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