奈良県宇陀市山添村にある長寿岩は、訪れる人の目をひときわ引きつける、不思議な魅力をたたえた巨岩です。高さおよそ7メートル、幅は12メートルにも達し、重さは約600トンと推定されており、その迫力ある姿は、村の自然の中に堂々とたたずんでいます。この岩が注目を集めるようになったのは平成7年(1995年)のことです。ふるさとセンターの建設に伴う造成工事の最中に地中から姿を現し、それ以来、地域の新たな顔として多くの人々を迎えてきました。
上空からの形は卵を思わせるとも言われており、そのなだらかで均整のとれた輪郭は、まるで自然が何万年もかけて丁寧に磨き上げた彫刻のようです。この岩は、今から約1億年前、山添の地がアジア大陸の東端に位置していたころ、地中深く、およそ10〜20キロメートルの深さでマグマがゆっくりと冷えて固まり、花崗岩として誕生したものと考えられています。その後、長い年月を経て地表へと現れ、今では村の風景に溶け込む存在となっています。
その大きさと形状もさることながら、岩の周囲にはしめ縄が張られており、そこには人々が長年にわたりこの岩に特別な想いを寄せてきたことが感じられます。特に天然痘除けを祈る場所として、この地を訪れた人々が手を合わせたとされており、自然の造形に宿る霊的な力を感じ取っていたことがうかがえます。岩そのものが持つ重厚感と、そこに込められた信仰の心とが相まって、見る人に静かな感動を与えます。
どんなに硬い岩でも、通常は長い年月のうちに風化して砂になっていく運命にありますが、この長寿岩はその名の通り、長い時の流れに耐えて今もなお美しい姿を保っています。その丸みを帯びた安定感のある姿は、自然界がつくり出した奇跡とも言えるでしょう。宇陀市山添村を訪れる際には、この堂々たる岩の存在にぜひ触れていただきたいと思います。自然と人とが静かに向き合う場所として、多くの人に語り継がれてゆくことでしょう。
長寿岩(奈良県)

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