長野県南木曽町に位置する妻籠宿(つまごじゅく)は、かつて中山道と呼ばれる江戸時代の五街道のひとつの宿場町として栄えた場所です。江戸と京都を結ぶこの街道を旅する人々にとって、妻籠は重要な休息地であり、宿泊や食事、馬の乗り換えなどを行うための拠点となっていました。現在でも、当時の面影を色濃く残す町並みが美しく保存されており、訪れる人々を江戸時代の旅へと誘ってくれます。
南木曽町が積極的に取り組んだ町並み保存運動により、妻籠は日本で初めて住民自らが景観保全に取り組んだ例として知られています。その努力のおかげで、電柱やネオンサインといった近代的なものは排され、木造の家屋や石畳の道が昔ながらの姿を保ち続けています。観光客が歩くと、まるで時代劇の舞台に入り込んだかのような感覚を覚えることでしょう。
町には古い本陣や脇本陣と呼ばれる建物が公開されており、江戸時代の宿泊施設の内部を見学することができます。これらの建物には、当時の大名や幕府の役人が休んだ部屋が残されており、彼らの旅の様子を想像することができます。また、資料館などでは、中山道を往来した旅人たちの暮らしや文化に触れることもでき、ただ景色を眺めるだけでなく、歴史そのものにじかに触れられるという魅力があります。
さらに、妻籠から馬籠へと続く旧街道を歩くハイキングルートも人気があります。この道はおよそ8キロほどの距離で、山間の自然を楽しみながら江戸時代の旅路を追体験できます。道中には茶屋跡や石畳が残されており、旅の雰囲気をより深く感じさせてくれます。春には山桜が咲き誇り、秋には紅葉が彩りを添えるため、四季折々の自然美も楽しめます。
南木曽町の妻籠は、現代の喧騒を忘れ、ゆったりとした時間の流れに身を委ねることができる場所です。過去と現在が静かに交差するこの宿場町では、日本の古き良き旅の精神を肌で感じることができるでしょう。
妻籠宿(長野県)

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