佐賀県西松浦郡有田町に位置する内山地区は、日本の伝統工芸を肌で感じられる静かな街並みが広がっています。江戸時代の面影を残すこの地域の中心にある皿山通り(有田駅と上有田駅を結ぶ県道281号線)を歩くと、白壁の町家や焼き物の工房が軒を連ね、焼き物の里ならではの落ち着いた雰囲気に包まれます。その一角で目を引くのが、赤茶色の不思議な風合いをもつ「トンバイ塀」と呼ばれる塀です。これは、登り窯を築く際に使用された耐火レンガや、焼成の過程で割れてしまった陶片を再利用し、赤土で塗り固めて作られた独特な構造物です。使われなくなった素材を丁寧に積み上げ、もう一度町の風景に命を吹き込んだこの塀には、職人たちの知恵と心が宿っているように感じられます。
特に皿山通りから一歩裏手へと入った小径には、この塀が連続して続く一帯があり、まるで陶磁器に囲まれた迷路の中を歩くような感覚を覚えます。表面には焼き物のかけらが無造作に埋め込まれており、それぞれ形や色が異なるため、一つとして同じ景色がないのも楽しみのひとつです。塀の合間からは、木漏れ日が差し込み、焼き物の断片に反射してきらめく様子が、訪れる人の目を楽しませてくれます。また、春や秋には周囲の自然と相まって、トンバイ塀のある風景がさらに趣を増し、写真愛好家や散策を好む方にとっても魅力的な場所となっています。
さらに、この塀の近くには、宮内庁にも納められる作品を生み出す「辻精磁社」の工房があり、静かな通りを歩いていると、時折中から聞こえる作業の音が、この町がいまも現役のものづくりの場であることを感じさせてくれます。少し足を伸ばせば、樹齢千年を超える大公孫樹の雄大な姿にも出会うことができ、その木の足元を彩るトンバイ塀とともに、時の流れと人の営みが織りなす景観が広がっています。有田町を訪れた際には、ぜひこの小径をゆっくりと歩いて、焼き物の町ならではの空気を味わってみてはいかがでしょうか。
トンバイ塀(佐賀県)
