東大寺(奈良県)

 奈良県奈良市にある東大寺は、奈良の街並みに溶け込むようにたたずみながらも、その圧倒的な存在感で多くの人々を引きつける名所です。奈良時代に国の安定と平和を願った聖武天皇の思いが形となり、仏教の力によって国家の安泰を実現しようという信念のもとで建設されました。当時、災害や疫病が相次いでいた時代背景もあり、人々の不安を取り除くために巨大な仏像が求められたのです。
 参道を抜けて境内に入ると、まず目に飛び込んでくるのが木造建築としては世界最大級とされる大仏殿です。正面から見上げると、どっしりと構える屋根と太い柱が力強く、訪れる人を包み込むような威厳を感じさせます。建物内に進むと、高さ約15メートル、重さ約250トンにもなる大仏さまが鎮座しており、その迫力に誰もが息をのむことでしょう。台座だけでも高さ約3メートル、左右の幅は約60メートル、奥行きも約50メートルあり、仏像を取り囲む空間すべてが厳かで神聖な雰囲気に満ちています。
 大仏さまの静かなまなざしを見つめていると、心が洗われるような気持ちになります。また、大仏殿内部の北東の柱にはひときわ目を引く穴が開いています。この穴の大きさは大仏さまの鼻の穴と同じとされており、その下をくぐると病気にならずに健康に過ごせると信じられています。子どもから大人まで、体をねじらせながらくぐるその様子は微笑ましく、訪れる人々の記憶にも深く刻まれる体験となります。
 東大寺は春になると桜が美しく咲き誇り、秋には紅葉が境内を彩るなど、四季折々の自然とともに表情を変えながら、訪れる人を迎えてくれます。奈良市の中心部に位置しながらも、時間の流れがゆるやかに感じられるこの場所で、仏教文化の深さと自然の穏やかさに触れるひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

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