史跡高松城跡(玉藻公園)(香川県)

 香川県高松市に位置する史跡高松城跡は、現在「玉藻公園」として整備されており、瀬戸内海に面した城郭のたたずまいを今に伝える貴重な場所です。海水を直接引き込んだ堀を持つ珍しい構造の城として知られており、水門を通じて潮の満ち引きが堀に影響を与える様子は、全国でも類を見ない特徴となっています。城郭の名に冠された「玉藻」は、古来より讃岐国を表す雅な呼び名であり、詩情豊かな響きがこの地の美しさを引き立てています。
 園内に入ると、最初に目を引くのが艮櫓(うしとらやぐら)です。この櫓は現存する貴重な建物で、かつての城郭の防御や監視の役割を担っていました。重厚な木組みと白壁のコントラストが美しく、訪れる人々の目を楽しませてくれます。また、復元された天守台も見どころのひとつです。往時の姿を偲ばせる石垣に上れば、海と市街地を一望することができ、かつてこの地を治めた武士たちの視線を感じることができるでしょう。
 さらに、内堀を巡る和船「玉藻丸」に乗れば、水面の目線から城跡を眺めることができ、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような気分を味わえます。船頭の案内に耳を傾けながら進む船は、穏やかな水面に揺られ、城の趣をより深く体感させてくれます。海水が引き込まれている堀では、タイなどの海魚が泳いでおり、魚にエサを与える体験も楽しめます。
 また、園内の植栽や芝生も手入れが行き届いており、四季折々の表情を見せてくれます。特に春には桜が咲き誇り、多くの花見客でにぎわいます。静かな池に枝を垂らす松や、園路を彩る季節の花々が、ゆったりとした時間の流れを感じさせてくれます。
 高松城跡を訪れることで、香川県高松市という都市の中心に、今も息づく歴史と自然の調和を感じ取ることができます。古の城郭が現代にやさしく溶け込み、市民の憩いの場として親しまれているこの場所は、訪れる人に深い感銘を与えてくれることでしょう。

コメント