大阪府三島郡島本町に位置するサントリー山崎蒸溜所は、日本のウイスキー文化を語るうえで欠かせない存在です。大阪と京都の境界にあたる山崎の地は、古くから名水の地として知られ、千利休もこの地で茶の湯を極めたと伝えられています。その柔らかな水質と、湿潤な気候、そして霧がよく立ちこめる独特の地形が、ウイスキー造りに理想的な環境を整えているのです。1924年、この恵まれた土地に日本で初めての本格的なモルトウイスキー蒸溜所が設けられたことは、国内外の多くのウイスキーファンの関心を集めてきました。
訪れるとまず、緑に包まれた静かな環境の中に建つレンガ造りの建物が目に入ります。内部では、ポットスチルと呼ばれる銅製の蒸溜釜がずらりと並び、その美しい曲線と堂々たる姿に目を奪われます。蒸溜工程では、それぞれ形状や加熱の仕方を変えた釜が使われており、これによって多彩な香味の原酒が生み出されています。また、職人たちが行う繊細な火入れや発酵の管理には、熟練の技と経験が息づいており、まさに「ものづくり」の精神を感じ取ることができます。
製造工程を見学したあとは、貯蔵庫へと足を運びます。ここでは、樽の中で長い年月をかけて静かに熟成されている原酒が並んでおり、木の香りがほのかに漂う空間が訪れる人の五感を包み込みます。時を重ねることで深みを増していくその様子には、自然と人の手が調和していることが実感できます。そして、ツアーの締めくくりとして用意されているのが、山崎の名を冠したシングルモルトなどのテイスティング体験です。芳醇な香りと複雑な味わいが舌の上で広がり、それぞれの原酒が持つ個性をゆっくりと楽しむことができます。
さらに敷地内には資料室もあり、過去の広告や蒸溜器の模型などを通じて、日本のウイスキーが歩んできた軌跡にふれることができます。島本町の自然とともに、情熱を注ぎ続けてきた人々の物語を感じられる場所として、山崎蒸溜所は多くの人々に特別な時間を提供しています。
サントリー山崎蒸溜所(大阪府)

コメント