広島県尾道市から愛媛県今治市へと続くしまなみ海道は、瀬戸内海に浮かぶ大小の島々を縫うように走る約60キロメートルのルートで、正式には西瀬戸自動車道と呼ばれています。尾道市から始まるこの道は、本州と四国を結ぶ三本のルートの一つとして1999年に全線開通し、車両だけでなく自転車や徒歩でも通行できる点が特徴です。これにより、サイクリストにとっては全国的にも名高い目的地となり、国内外から多くの人々が訪れるようになりました。
道中では向島、因島、生口島、大三島、伯方島、大島と、六つの島を橋でつないでおり、それぞれの島に立ち寄ることで瀬戸内ならではの穏やかな景観や、地元の文化・食に触れることができます。尾道市から最初に渡るのは向島で、ここではのどかな漁村風景や柑橘畑が広がり、海風とともに旅の始まりを感じさせてくれます。その後の因島では、因島水軍城や地元の造船文化を思わせる風景が見られ、島ごとに個性が異なるのがこのルートの魅力でもあります。
中でも生口島にある瀬戸田町は、レモンの生産地として知られており、新鮮な柑橘を使ったスイーツや料理が旅人の舌を楽しませてくれます。また、平山郁夫美術館では地元出身の画家の作品を鑑賞することができ、静かな島の雰囲気と芸術が調和した時間を過ごせます。その先の大三島では、古くから信仰を集める大山祇神社があり、神聖な空気の中で歴史と自然を感じることができます。伯方島は「伯方の塩」で知られ、塩づくりの文化に触れることもできますし、海辺では穏やかな波音とともに散策を楽しめます。
尾道市を出発して今治市にたどり着くまで、橋から見下ろす瀬戸内海の多島美は、季節や時間帯によって様々な表情を見せてくれます。特に夕暮れ時には、空と海がゆっくりと茜色に染まり、旅の疲れを忘れるような静寂が訪れます。しまなみ海道はただの移動手段ではなく、それぞれの島をひとつずつ踏みしめながら、自然と人の営みが重なり合う風景を味わう旅路として、多くの人々の心に残る場所となっています。尾道市から始まるこの道は、広島県の魅力を五感で感じられる特別なルートと言えるでしょう。
しまなみ海道(西瀬戸自動車道)(広島県)

コメント