大阪市北区に位置する造幣局の桜の通り抜けは、春の訪れを告げる風物詩として多くの人々に親しまれています。明治時代に創設された造幣局は、貨幣や勲章などを製造する日本の重要な機関ですが、その敷地内に咲き誇る桜が一般公開されるようになったのは、明治16年(1883年)のことです。当初は職員やその関係者が楽しんでいた桜並木でしたが、やがて市民の間にも評判が広まり、現在では全国から花見客が訪れる一大イベントとなっています。
通り抜けと呼ばれるのは、造幣局の敷地内に設けられた約560メートルの一本道を一方通行で歩きながら桜を観賞する形式だからです。この道の両側には約142品種340本の桜が植えられており、特に八重桜が多いのが特徴です。一般的なソメイヨシノが葉桜になった頃に見ごろを迎えるため、時期を少しずらして花見を楽しめることも魅力のひとつです。
この桜並木には、珍しい品種も数多く見られます。「普賢象」や「関山」、「松月」など、他の名所ではなかなか見ることのできない桜が並び、それぞれに名札が付けられているため、花の名前を確かめながら歩くのも楽しみ方の一つです。また、毎年選ばれる「今年の花」に注目する人も多く、その年の注目品種として写真を撮る来場者で賑わいます。
日没後にはライトアップも実施され、昼間とは異なる幻想的な雰囲気の中で花を楽しむことができます。夜桜を見ながら歩くと、歴史ある建物と桜が織りなす光景に心を奪われることでしょう。桜の季節には地元の屋台も並び、食べ歩きやお土産選びもまた訪れる楽しみのひとつです。
大阪市の中心部にありながら、川沿いの静かな場所に広がるこの通り抜けは、春の短い期間だけ開放される特別な空間です。限られた日程の中で、一年に一度の贅沢なひとときを求めて多くの人々が訪れるこの場所は、大阪の春を代表する華やかな景観を体感できる貴重なスポットとなっています。
桜の通り抜け(造幣局)(大阪府)

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