大久野島(広島県)

 広島県竹原市に属する大久野島は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島でありながら、訪れる人々に深い印象を与える不思議な魅力を持っています。忠海港からフェリーに揺られて約15分、海風に包まれながらたどり着くその島は、かつて一般地図からも消された過去を持ち、現在では「うさぎの島」として広く知られるようになりました。
 島に足を踏み入れると、まず出迎えてくれるのが数百羽ともいわれる野生のうさぎたちです。人懐っこく、足元に寄ってきては愛らしいしぐさを見せてくれる彼らは、多くの旅行者の心をつかんで離しません。子どもから大人まで、餌やりを楽しんだり、一緒に写真を撮ったりと、のどかな時間が流れます。しかし、かわいらしいうさぎたちが暮らすこの島には、かつて化学兵器の製造拠点であったという重い過去が残されています。
 島内にはその記憶を伝える資料館があり、当時使われていた施設の一部が今も点在しています。錆びついた発電所跡や貯蔵庫の残骸など、朽ちたコンクリートの姿は、緑豊かな自然の中にひっそりと存在しており、静かに時の流れを物語っています。訪れることで、平和の大切さを実感し、過去と向き合うきっかけにもなる場所です。
 また、大久野島は自然の美しさにも恵まれており、四季折々の景色が楽しめます。春には桜が咲き誇り、夏には海水浴やキャンプ、秋には紅葉、そして冬には静かな海を背景に澄んだ空気が広がります。島内には宿泊施設もあり、ゆっくりと滞在しながら自然と触れ合うことができます。夜には満天の星が広がり、都市では味わえない静寂と癒しを感じることができるでしょう。
 竹原市のこの小さな島は、かわいらしさと過去の記憶、そして豊かな自然が共存する特別な空間です。日常から少し離れた時間を過ごしたい方にとって、大久野島は忘れられない体験をもたらしてくれることでしょう。

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