大川内山(佐賀県)

 佐賀県伊万里市の大川内山は、まるで山水画の世界に迷い込んだかのような趣を感じさせる場所です。鋭くそそり立つ屏風岩が周囲の山々と調和し、まさに自然と人の営みが一体となったような風景が広がっています。ここはかつて、外部にその存在を隠された窯がひそかに置かれていた場所で、今では「秘窯の里」として親しまれています。そんな呼び名がつくほどに、かつての営みは静かに、そして確かな技として受け継がれてきました。
 この地で生まれる焼き物は、「伊万里焼」として知られており、手にとるとその滑らかな質感と美しい白磁の色合いに思わず見入ってしまいます。染付けに使われる呉須の深い藍色と、細部にまで施された赤の色彩が織りなす模様は、まさに職人の技と美意識の結晶といえるでしょう。町を歩けば、30を超える窯元が軒を連ね、それぞれの作品が店先に並んでいます。一軒一軒立ち寄るたびに、少しずつ違った趣を持つ器たちが顔をのぞかせ、焼き物に詳しくない方でも楽しめる工夫が感じられます。
 毎年夏になると、「風鈴まつり」という催しが開催され、大川内山の町並みは一層華やかになります。窯元たちが手がけた風鈴が、それぞれの工房の軒先に飾られ、約3000個にもおよぶ陶器の風鈴が、山々に囲まれた静かな谷間に澄んだ音色を響かせます。訪れた人々は、その優しい音に耳を傾けながら、涼やかな風を感じ、五感すべてでこの地の魅力を味わうことができます。
 伊万里市のこの小さな山間の町は、自然と文化が織りなす穏やかな時間が流れており、旅の喧騒を忘れさせてくれるような特別な空間です。歩くだけで心が静まり、器を手にするたびに、その背景にある職人の息遣いを感じることができるでしょう。大川内山は、訪れるたびに新たな発見と癒しをもたらしてくれる、そんな場所です。