バチカン・オベリスク(バチカン)

 サン・ピエトロ広場の中央にそびえるバチカン・オベリスクは、歴史の重みを感じさせる象徴的な存在です。このオベリスクは、古代エジプトで建造されたもので、元々は紀元前13世紀にヘリオポリスで建てられました。その後、ローマ帝国時代にカリグラ皇帝によってローマに移され、最終的にはネロのサーカスに設置されました。このサーカスは、初期キリスト教徒が殉教した場所としても知られています。
 その後、16世紀末にシクストゥス5世の命により、オベリスクは現在のサン・ピエトロ広場に移されました。この移設作業は当時の技術的限界を超えた挑戦であり、多くの労働者が動員され、幾度もの試行錯誤を経て成功しました。オベリスクの基部には、教皇シクストゥス5世を称えるラテン語の碑文が刻まれています。
 オベリスクの先端には、もともと金の球があり、その中には「シーザーの灰」が納められていると信じられていましたが、実際には空であったことが後に判明しました。その後、球は取り外され、現在の十字架が取り付けられました。これは、キリスト教の象徴としての意味を持ち、バチカンの宗教的中心地としての地位を強調しています。
 オベリスク自体は花崗岩で作られ、高さ約25.5メートル、基礎部分を含めると全体の高さは約41メートルに達します。その堂々たる姿は、広場全体の視点を統一し、訪れる人々の視線を自然に引き寄せます。オベリスクの四隅には、四頭のライオンの像が配置されており、それぞれが力強さと威厳を象徴しています。これらのライオン像は、訪れる者に対する威厳と保護の意味を持っています。
 訪れる人々は、オベリスクの周囲を取り囲む噴水や、ベルニーニの設計によるコロネードと共に、その歴史と美しさを堪能することができます。特に日没時には、オベリスクが柔らかな光に包まれ、そのシルエットが一層際立ちます。オベリスクの背後に広がるサン・ピエトロ大聖堂と相まって、ここは信仰と芸術が融合した特別な空間となっています。
 訪れる際には、オベリスクの足元に立ち、その古代エジプトから現代に至るまでの長い歴史に思いを馳せるとともに、その巨大な石柱が目の前にそびえ立つ威厳を感じることでしょう。このオベリスクは、単なる石の柱ではなく、時を超えて続く人類の歴史と信仰の象徴として、今日も多くの人々を魅了し続けています。

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