高知県安芸市にある野良時計は、明治時代の面影を今に伝える趣ある建物として知られています。広がる田園地帯の中にひっそりと佇むこの時計台は、当時の農村風景と見事に調和し、現在もなお訪れる人々の心を引きつけています。建てられたのは明治20年、まだ時計が一般の家庭にはほとんど存在していなかった時代です。この時計台を作ったのは、安芸市の旧家であり地主でもあった畠中源馬という人物で、自ら時計の仕組みを学び、歯車から分銅に至るまでの部品をすべて手作業で作り上げました。
当時の農村において、正確な時間を知る術はほとんどなく、日の高さや太陽の位置などで判断するしかありませんでした。そんな中、この時計台は田畑で働く人々にとってとてもありがたい存在でした。畑仕事をしながらでも遠くから目視できるよう、高く掲げられたローマ数字の文字盤が目印となり、人々はこれを頼りに一日の作業の区切りをつけていたのです。そのため、農作業の合間に時刻を知るという役割から「野良時計」と呼ばれ、地元の人々に愛され続けてきました。
建物の構造は白壁に安芸瓦の屋根という伝統的な意匠を持ちつつ、文字盤には洋風のローマ数字が用いられており、和と洋の融合が感じられます。まるで明治の文明開化の息吹がそのまま形になったかのような風情があり、訪れる人に時代の流れを静かに伝えてくれます。現在も外観は丁寧に保存されており、周囲の景観とともにその姿を保ち続けています。ただし、こちらは私有地にある個人の住居の一部ですので、中に入ることはできません。見学は外からのみに限られていますが、十分にその魅力を感じることができます。
訪問の際には東側に無料の駐車場が設けられており、車でのアクセスも便利です。春や秋には周囲の田んぼや木々の彩りがさらに風情を引き立て、野良時計と自然が織りなす風景は、写真愛好家にも人気のスポットとなっています。都会の喧騒を離れて、時の流れがゆったりと感じられるこの場所で、ぜひ明治の息吹に触れてみてください。
野良時計(高知県)
