広島県廿日市市に位置する弥山(みせん)は、宮島と呼ばれる厳島の中でもひときわ神聖な雰囲気をまとった山として知られています。この島全体が神の宿る地とされてきましたが、標高535メートルの弥山は特に信仰の対象とされ、多くの人々が心を静める場として訪れてきました。山の中腹には、西暦806年に弘法大師・空海が開いたとされる霊火堂があり、ここでは開創当時から絶えず灯り続ける火が今も守られています。この火は「消えずの火」と呼ばれ、訪れる人々に深い感慨を与えています。
登山道はいくつかあり、それぞれに異なる風情を楽しめます。紅葉谷公園から始まるルートでは、四季折々の自然の美しさを感じながら歩くことができますし、初心者にはロープウェーを利用して中腹まで登る方法も人気です。ロープウェーからの眺望は広島湾を一望できる絶景で、晴れた日には四国方面まで見渡せることもあります。さらに山頂からは、瀬戸内海に浮かぶ大小さまざまな島々が織りなす風景が広がり、まるで絵画のような静謐な光景が広がります。
自然環境も豊かで、原始林に覆われた弥山は学術的にも貴重なエリアとして保護されています。山全体がユネスコの世界文化遺産に登録されており、天然記念物にも指定されています。登山道の途中では、奇岩や巨石が点在し、それぞれに名前がつけられていて、昔から信仰や伝説と深く結びついてきたことが感じられます。
宮島の厳島神社を訪れたあと、少し足を延ばして弥山を歩くことで、この地がいかに多層的な文化と自然の織りなす特別な場所であるかを実感できます。心と体をゆっくりと解き放ち、静かな時間の流れに身をゆだねる体験ができる場所、それが廿日市市の弥山です。
弥山(広島県)

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