未来心の丘(広島県)

 広島県尾道市瀬戸田町にある「未来心の丘」は、耕三寺博物館の敷地内に広がる真っ白な大理石の空間で、訪れる人々に不思議な感覚をもたらしてくれる場所です。およそ5,000平方メートルに及ぶこの丘は、世界的に活躍する彫刻家・杭谷一東氏が手がけたもので、その制作にはイタリア・カッラーラ産の大理石がふんだんに使われています。この石は、氏のアトリエがある土地で採掘され、はるばる海を越えて運ばれてきたものです。丘には「光明の塔」や「白獅子の塔」「天猫」など、それぞれに意味と個性を持った造形物が点在しており、ただ眺めるだけでなく、実際に手で触れたり腰掛けたりして楽しむことができます。
 作品は、仏教に登場する守護神をイメージの源としながらも、宗教的な枠を超えて普遍的な美しさや力強さを感じさせてくれます。例えば、「亀玉の舞台」には大きな亀が姿を現し、「白象の小庭」では柔らかな表情を浮かべた象が佇んでいます。すべての作品は石との対話を重ねながら創られており、風や光、空の青さや雲の流れといった自然の動きと調和するように配置されています。そのため、季節や時間帯によって丘の雰囲気は変わり、何度訪れても新たな印象を受けることでしょう。
 また、丘の一角にある「カフェ・クオーレ」は、芸術空間の延長として設計された場所で、建物のデザインから家具に至るまで杭谷氏のこだわりが反映されています。店内にはビーナス像や葡萄のモチーフが彫り込まれた大理石の柱が立ち並び、まるでイタリアのトスカーナ地方を旅しているかのような錯覚に包まれます。クオーレという名前には「真心」という意味が込められており、訪れた人々を温かく迎えてくれます。
 この場所は芸術作品であると同時に、人々が自由に感じ、思い思いに過ごすことができる開かれた空間でもあります。日常の喧騒を離れ、石と空、光と風が織りなす静かな世界に身をゆだねる時間は、心に新しい息吹をもたらしてくれるはずです。尾道市瀬戸田町を訪れる際には、この丘で過ごすひとときを旅の記憶にぜひ刻んでみてください。

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