倉吉白壁土蔵群(鳥取県)

 鳥取県中部に位置する倉吉市には、訪れる人々を時代の流れからそっと切り離してくれるような静かな一角があります。それが、倉吉白壁土蔵群と呼ばれる地域です。玉川沿いに広がるこの一帯には、白い漆喰壁に黒い焼き杉の板が映える土蔵や町屋が軒を連ね、かつて商都として栄えた町の面影が今も色濃く残されています。歩を進めるたびに、どこか懐かしく、ほっと心がほどけるような風景が続き、まるで江戸から明治にかけての時代にタイムスリップしたかのような感覚を味わえます。
 この町並みは、商人たちの活気と誇りがそのまま建物に息づいているかのようで、和傘を取り扱う老舗や、昔ながらの味噌や酒を扱う店、手作業の和紙工房などが今も現役で営業しています。それぞれの建物は、倉吉の気候や風土に合わせて工夫され、湿気を防ぐためのなまこ壁や格子窓などが特徴的です。玉川にかかる石橋や柳並木も風景に優雅な趣を加え、四季折々の表情を見せてくれます。
 さらに町の中には、観光客に開かれた資料館や文化施設も点在しており、建物の中に一歩足を踏み入れると、木の香りと共に往時の暮らしが感じられます。地域の人々によって丁寧に守られ、補修されてきた建物が多く、単なる保存というよりも、今を生きる生活の場としても機能している点にこの町の温かみが表れています。散策の途中には、地元の食材を使った甘味処やカフェに立ち寄るのも楽しい時間となるでしょう。
 倉吉市のこの地域は、観光バスで訪れても十分に楽しめますが、むしろ歩いてゆっくりと回ることで、その魅力がより深く感じられます。静けさの中に耳を澄ませると、昔の暮らしの声がどこからか聞こえてくるような、不思議な余韻を残してくれます。そうした感覚を味わいながら過ごす時間は、日常の喧騒を忘れさせ、旅の思い出として深く心に残ることでしょう。

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