長崎県新上五島町に位置する頭ヶ島は、五島列島の一角を成す静かな島です。この島には、今もなお時代を超えて信仰の香りが漂う集落が広がっています。周囲を青く澄んだ海に囲まれたこの地には、かつて外海地方からの人々が暮らしを求めて移り住んできました。江戸時代、信仰を守り抜こうとした潜伏キリシタンたちは、幕府の目を逃れるために五島列島の離島を選び、家族とともにこの島で静かに暮らしながら信仰を受け継いでいったのです。
島の奥まった小高い場所には、石造建築が静かにたたずんでいます。これが頭ヶ島天主堂で、石積みの壁が放つどっしりとした存在感と、草木の緑に映えるその姿は訪れる人を魅了してやみません。この教会は全国でも数少ない石造りの聖堂であり、地元の石工によって一つひとつ丁寧に積み上げられた壁面には、住民たちの信仰の深さと共に、時を超えて受け継がれてきた文化の重みが感じられます。
内部に足を踏み入れると、そこには柔らかな光が差し込み、静謐な空気に包まれた空間が広がります。天井や柱、祭壇まわりにさりげなくあしらわれたツバキの意匠が、華やかさの中にも五島の自然や暮らしへの愛着を映し出しています。このツバキは五島列島の象徴的な植物でもあり、教会を訪れる人々の心にやさしい印象を残してくれます。教会の見学は事前の連絡が必要ですが、9時から18時までの間に案内を受けることができます。
また、頭ヶ島は長崎市から離れているため、かつては外国人神父が密かに渡航していたことも知られています。そのため、島全体が人々の祈りと希望を受け止めてきた場所ともいえるでしょう。現在では、長崎と天草地方にまたがる関連資産の一部として、世界遺産にも登録されています。静かに波音が響くこの小さな島で、時を超えて受け継がれてきた人々の足跡をたどってみるのも、旅の中で忘れがたい体験となるに違いありません。
頭ヶ島の集落(長崎県)
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