四国の旅のなかでも、とりわけ深いものとして知られる寺院があります。それが、徳島県板野郡板野町にある地蔵寺。このお寺は、四国遍路の巡礼道として著名な四国八十八ヶ所霊場において、第五番札所にあたるお寺です。
この地蔵寺は、平安時代の弘仁12年(821年)、嵯峨天皇の勅願を受けて弘法大師が建立したと伝えられています。大師はこのお寺の本尊として、甲冑をまとい馬にまたがる姿の小さな地蔵菩薩像――約5.5センチの「勝軍地蔵菩薩」を自ら刻んだとされ、その後、より大きな「延命地蔵菩薩」が霊木から造られ、その胎内に大師の像が納められました。これによって、このお寺の信仰は朝廷のみならず、武門の人々にも及ぶものとなり、平安から中世、さらに近世にいたる長き時の中で深く尊ばれてきました。
その影響の大きさは、かつてこの寺が伽藍(建物のまとまり)を備え、塔頭(塔・子院)を数多く抱え、阿波・讃岐・伊予の三国にまたがる末寺を三百寺余り有する規模を誇ったという記録に見ることができます。一時は火災や戦乱で荒廃した時期もありましたが、後世に至る再建と地元の支えによって、現在にいたるまでその存在感を保ってきました。
参拝者が足を踏み入れると、まず目に入るのは本堂や大師堂、不動堂や経蔵などが並ぶ境内の静けさと落ち着きです。そこからさらに石段を登り、小高い丘に設けられた「奥の院」へ向かうと、圧倒的な迫力をもつ五百羅漢像の群れに出会います。等身大あるいはそれに近い木造の羅漢像たちが、それぞれに異なる表情を見せて並ぶその光景は、訪れた人々に強く印象を残します。かつてはより多くの羅漢像があったとも言われ、今なおその数は二百体前後に及ぶとされます。
さらに、境内にはこの寺の歴史を物語るもうひとつの「証」があります。それが、樹齢約八百年とされる大銀杏の木。伝えでは、その木は弘法大師自身が手植えしたものとも言われ、長い年月を経た今もなお、壮大な姿で寺を見守っています。季節ごとに葉の色を変え、参拝者に自然の移ろいと古刹の静寂を感じさせてくれます。
こうした重みある背景と、多くの人々の祈りを受け続けてきた歴史。そして、目に見える堂宇や仏像、悠久の木々。それらすべてが揃っているのが地蔵寺――静けさのなかに、時代を超えた祈りと人々の営みを伝える、心に残る場所です。もし徳島を訪れる機会があれば、板野町のその寺を、ぜひ旅の一つに加えてみてください。
地蔵寺(徳島県)
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