岩屋巨石(広島県)

 広島県尾道市向東町に位置する岩屋山は、尾道水道を隔てて本土側の千光寺からもその存在を望むことができる、標高わずか102メートルの小高い山です。尾道大橋を渡り、向島へと入ると、ほどなくしてこの山が見えてきます。一見すると特に目立つものもない静かな山ですが、足を踏み入れるとその印象はがらりと変わります。山の麓には「尾道の古代ミステリーゾーン」や「隠された神話~尾道の謎~」と書かれた幟が立ち並び、これから始まる不思議な空間への期待を高めてくれます。
 登山道を進むと、徐々に視界が開け、巨大な岩が次々と姿を現します。最初に目を奪われるのが「飛び出す石」と呼ばれる奇妙な岩の組み合わせです。まるで巨大な岩の扉がこじ開けられたかのように配置され、二つの岩の間には小さな石が絶妙なバランスで挟まれており、自然の力だけでこうなったとはにわかに信じがたい形をしています。
 そのまま岩の上を伝ってさらに登っていくと、山頂に近づくにつれて次第に岩の数は増え、広場のようになった空間には無数の巨石が散在しています。その中には祠が設けられているものもあり、古代の人々がこの地に特別な意味を感じていたことを物語るような静けさと神秘に包まれています。中でも山頂近くにある、龍の頭のような形をした巨大な岩は、威厳を放ち、まるで自然の守護者のように佇んでいます。
 この岩屋山の存在は、尾道市にある千光寺・西國寺・浄土寺の三つの寺院と深く関わっています。それぞれが岩屋山に向けて建てられており、まるでこの山を中心に配置されたかのような位置関係にあります。浄土寺は山頂から見て真北に位置し、三寺はおよそ30度ずつの角度で並んでいるとされており、この配置には何らかの意図があったのではないかとも考えられています。
 さらに興味深いのは、「岩屋巨石割れ目」と呼ばれる場所です。まるで何かで正確に切断されたような裂け目を持つ巨石があり、夏至には東側から太陽が昇り、冬至にはその割れ目の西側に夕日が沈むという現象が確認されています。そして千光寺の本堂正面は岩屋山山頂と向かい合っており、冬至の朝には山頂から朝日が昇るようになっています。このような一致をただの偶然と見るには無理があるようにも感じられ、古代の人々がこの山をどのように見つめ、何を託していたのか、その想いに思いを馳せずにはいられません。
 割れ目の内部に彫られた摩崖仏や、周囲に広がる岩の配置も含め、向東町の岩屋山は、尾道の自然と人の営みが交差する、まさに謎に満ちた空間といえるでしょう。

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