愛知県新城市に位置する百間滝(ひゃっけんたき)は、奥三河の自然が生んだ壮大な景観のひとつで、訪れる人々に深い感動を与える名所です。この滝は、鳳来寺山(ほうらいじさん)の山麓に広がる鳳来峡(ほうらいきょう)と呼ばれる渓谷の中にあり、険しい岩肌を流れ落ちるその姿は、まさに自然が造り上げた芸術作品といえるでしょう。「百間」とは長さの単位であり、その名前の通り、滝の高さは約120メートルにも及び、段階的に流れ落ちる様子はとても優雅で迫力があります。
この滝がある鳳来寺山周辺は、古くから修験道の聖地とされ、多くの修行者が山中で厳しい修行を積んできた場所です。鳳来寺自体は奈良時代に開かれたとされ、山全体が信仰の対象とされてきました。そのため、この滝もまた精神的な修練の場として重要な存在であり、自然の持つ力強さや神聖さを象徴する場所として受け継がれてきました。現在でも、滝の流れに耳を傾けていると、かつての修行者たちの息吹が聞こえてくるような、厳かで静かな空気に包まれます。
滝へ向かう道中には、豊かな森林と清らかな渓流が広がっており、春には新緑、夏には涼風、秋には紅葉、冬には氷結と、四季折々の風景が訪れる人の目を楽しませてくれます。特に秋の紅葉の時期には、滝を背景に鮮やかな赤や黄の葉が映え、写真愛好家たちにも人気の撮影スポットとなっています。また、周辺には遊歩道が整備されているため、自然散策を楽しみながら滝へと向かうことができ、道中には小さな滝や奇岩、清流なども見られ、歩くたびに新たな発見があります。
新城市のこの地域は、観光地化が進み過ぎていないことも魅力のひとつです。人の手が入りすぎていない自然の姿が残されており、訪れる者にとっては日常から離れ、静寂の中で心を整えるひとときを味わえる場所となっています。百間滝は、ただ水が流れるだけの景色ではなく、大地と水と時間が織りなす悠久のドラマを体感できる、そんな特別な存在なのです。
百間滝(愛知県)

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