吹屋ふるさと村(岡山県)

 高梁市にある吹屋ふるさと村は、山あいに広がる赤銅色の町並みが印象的な場所です。かつてこの地域では銅とベンガラ(弁柄)の生産が盛んに行われ、特にベンガラは独特の深みを持つ赤色顔料として全国的に知られる存在でした。ベンガラによってもたらされた富が、町全体の建築や文化に色濃く反映されており、現在もその名残を随所で見ることができます。
 通りを歩けば、赤茶色の石州瓦とベンガラ色の外壁が美しく調和した商家や住居が連なり、まるで時代をさかのぼったかのような静けさと風情に包まれます。建物の意匠には細やかな工夫が凝らされ、格子や土壁の模様、木製の看板など、当時の職人たちのこだわりが随所に感じられます。特に江戸から明治期にかけて建てられた家屋が多く、現在も地元の人々の手によって丁寧に守られています。
 この集落の中心には旧吹屋小学校があります。木造の校舎としては日本でも有数の規模と歴史を持ち、年月を重ねた木の温もりが訪れる人々の心を和ませてくれます。内部は公開されており、教室や廊下、備品などにかつての学び舎の面影が残されていて、多くの人が懐かしさを覚えることでしょう。
 さらに、この地域ではベンガラの製造に使われた施設も保存されており、製造工程の再現や道具の展示を通じて、当時の産業の姿を身近に感じることができます。また、職人の技を今に伝えるワークショップも行われており、訪れる人々が実際にベンガラ染めを体験することも可能です。
 吹屋ふるさと村を訪れると、単なる観光地としての魅力にとどまらず、かつてここで営まれていた人々の暮らしや文化、そして町を支えた産業の息づかいを感じることができます。高梁市の山間にひっそりと佇むこの町並みは、訪れた人の心に深い印象を残すことでしょう。

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