引田のまち並み(香川県)

 香川県東かがわ市に位置する引田は、瀬戸内海の風を感じながら歩ける、昔ながらの佇まいが魅力の港町です。今でも町の通りには江戸時代からの面影を残す建物が並び、赤壁や虫籠窓の商家が静かに時の流れを語りかけてきます。かつては醤油づくりで栄え、現在も「かめびし屋」では伝統的な製法を守り続けています。ここでは職人の丁寧な作業風景を見学でき、醤油を使った軽食も楽しめるため、香りと味の両面から町の個性に触れることができます。
 町の中心には、江戸時代の豪商・佐野家が暮らしていた屋敷を活用した施設「讃州井筒屋敷」があり、館内では引田の暮らしや交易の様子について学ぶことができます。ここで提供される「ひけた鰤の丼」は地元食材の旨味が凝縮された逸品で、食を通してこの町の豊かさを実感できます。
 また、昭和初期に建てられた旧郵便局を活かしたカフェも存在しており、レトロな雰囲気の中でコーヒーを味わいながら、時代の移ろいに思いを馳せることができます。町には革製品や手袋の製造を体験できる工房もあり、ものづくりの奥深さを直接肌で感じられるのも引田ならではです。
 町外れの小高い場所に足を延ばすと、地元の氏神である誉田八幡宮が静かに佇んでいます。秋には勇壮な伝統行事が行われ、地域の絆や信仰が今も息づいていることを感じられます。そして、そのすぐ近くには引田城の跡地があり、頂上からは瀬戸内海と町並みが一望できる絶景が広がります。晴れた日には遠く小豆島まで見渡すことができ、ゆったりとした時間の流れの中で、この土地ならではの風景に身を委ねることができます。
 引田は、香川県東かがわ市の一角にありながら、訪れる人に懐かしさと発見を同時に届けてくれる場所です。商人たちが行き交った往時の息吹を感じながら、ゆっくりと町を巡ることで、日常では味わえない心のゆとりを見つけることができるでしょう。