玉泉院丸庭園(石川県)

 石川県金沢市に位置する玉泉院丸庭園は、加賀藩前田家ゆかりの由緒ある場所で、江戸時代の情緒を今に伝える美しい空間です。この庭園は、金沢城の西側に位置しており、もともとは藩主の隠居所として整備された「玉泉院丸」と呼ばれる屋敷に付随して造られました。その名は、加賀藩初代藩主・前田利家の正室、まつ(芳春院)の法号「玉泉院」にちなんで名付けられたものとされており、藩主の家族にとって特別な意味を持つ場所でした。
 長らく埋没していたこの庭園は、平成に入り発掘調査が行われたことによってその姿を徐々に現し、往時の姿をできる限り忠実に再現するかたちで整備され、平成27年(2015年)に一般公開されました。築山や池、石橋、滝といった日本庭園の基本的な要素を備えながらも、金沢城の城郭の一部としての機能も持っていたため、単なる庭園以上の歴史的な重みが感じられます。
 池の周囲を巡るように設計された園路を歩くと、視点が変わるごとに異なる風景が広がり、まるで絵巻物のように風情が移り変わっていくのが魅力です。特に水の流れを利用した滝の造形は見事で、当時の職人たちの高度な技術を偲ばせます。また、四季折々の植物が美しく彩り、春の桜や秋の紅葉の時期には多くの訪問者がその景色に心を奪われます。
 夜間にはライトアップが行われることもあり、昼間とは一味違った幻想的な雰囲気を楽しむことができます。金沢市を訪れた際には、兼六園や金沢城公園とともに、この庭園にも足を運び、かつての加賀藩主たちが過ごした空間の気配に触れてみることをおすすめします。現代の喧騒を忘れさせてくれる静寂と、歴史が織りなす深い趣がそこには確かに息づいています。

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