岐阜県下呂市に位置する下呂温泉は、古くから多くの人々に親しまれてきた日本有数の名湯のひとつです。飛騨川のほとりに広がるこの温泉地は、その湯の質の高さで知られており、平安時代の書物にもその存在が記されていることから、非常に長い年月にわたって湯治場としての役割を果たしてきました。鎌倉時代にはすでに湯治客で賑わっていたとされ、江戸時代には草津、有馬と並んで「日本三名泉」と称されるようになりました。特に、室町時代の京都の僧・万里集九が旅の記録に下呂温泉の素晴らしさを記していることからも、その湯がどれほど評判だったかがうかがえます。
この地域の泉質はアルカリ性単純温泉で、肌にやさしく、まるで石けんで洗った後のようなつるつるとした感触が特徴です。そのため「美人の湯」とも呼ばれ、女性客を中心に高い人気を誇っています。下呂市の中心部には、無料で利用できる足湯や手湯が点在しており、散策をしながら気軽に温泉気分を味わうことができます。また、飛騨川沿いに設けられた露天風呂「噴泉池」は開放感にあふれ、川のせせらぎを聞きながらゆったりとしたひとときを過ごせる場所として、訪れる人々に好まれています。
温泉街の中心には、合掌造りの建物が立ち並ぶ「下呂温泉合掌村」があります。ここでは、岐阜県白川郷などから移築された合掌造りの民家を見学できるほか、伝統工芸の体験や地元の暮らしに触れることもできます。これにより、ただ湯につかるだけではなく、地域の文化や歴史にも身近に触れることができる点が、この地の魅力のひとつとなっています。
さらに、下呂市内には飛騨牛や地元野菜を使った料理を楽しめる飲食店も多く、味覚の面でも旅人を楽しませてくれます。夜には温泉街に灯るやわらかな明かりが川面に映り、どこか懐かしさを感じさせる風情ある景観が広がります。古くから人々を癒してきたこの湯のまち・下呂温泉は、今もなおその魅力を保ち続け、多くの人々の心と体を温めているのです。
下呂温泉(岐阜県)

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