長野県安曇野市にある大王わさび農場は、日本を代表するわさびの産地として知られ、訪れる人々に豊かな自然とともにわさびの奥深い世界を伝えてくれる場所です。北アルプスの山々から流れ出る清らかな湧水が農場内を絶え間なく流れ、その冷たく透明な水こそが、わさび栽培には欠かせない重要な条件となっています。この地に農場が開かれたのは1915年のことで、以来100年以上にわたり、伝統的なわさび栽培の技術が受け継がれてきました。
農場の名前にもなっている「大王」とは、かつてこの地を治めていた魏石鬼八面大王に由来しています。大王は民を守るために、坂上田村麻呂率いる朝廷軍と戦い命を落としましたが、その胴体が埋められたとされる塚が農場内にあったことから、この名が付けられ、大王を祀る神社も建立されました。
農場では、広大なわさび田が水路によって区画され、その中で青々としたわさびが丁寧に育てられています。訪問者は歩道沿いから栽培の様子を間近に眺めることができ、春から初夏にかけては白く可憐なわさびの花が咲き誇り、清涼感あふれる風景が広がります。特に人気があるのが、水車小屋と川の風景で、黒澤明監督の映画『夢』の撮影にも使われたことがあります。ゆるやかに回る水車の音と、清流のせせらぎが調和した光景は、訪れる人の心を静かに癒してくれます。
また、園内にはわさびを使った多彩な商品も充実しており、名物のわさびソフトクリームや、わさび漬け、わさびコロッケなど、ここならではの味覚が楽しめます。土産物店では、わさび関連の加工品が数多く並び、自宅でも安曇野の味を楽しめるようになっています。さらに、体験コーナーでは、自分でおろしたわさびを味わうことができ、普段スーパーで手に入る練りわさびとは一線を画す、鼻に抜ける爽やかな辛味と香りを体感できます。
安曇野の清らかな自然の中で育まれたわさびの世界を、見て、食べて、感じることができる大王わさび農場は、四季折々の表情とともに、訪れるたびに新たな魅力を発見できる場所となっています。
大王わさび農場(長野県)

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