佐賀県鹿島市に位置する肥前浜宿は、有明海に面した穏やかな町にありながら、今もなお昔ながらの風情を色濃く残す場所として多くの人を引きつけています。この一帯は、江戸時代に長崎街道の脇街道として発展し、特に酒や醤油の醸造で知られるようになりました。町の中心部には「酒蔵通り」と呼ばれるエリアがあり、およそ600メートルにわたって白壁の伝統的な建物が連なり、歩くたびに歴史の足音が聞こえてくるような感覚を味わえます。
街道沿いには澄んだ小川が静かに流れており、そのせせらぎの音が訪れる人の心を和ませます。家屋の軒先には、杉玉と呼ばれる緑の球が吊るされており、これは新酒ができたことを知らせる印として昔から使われてきたものです。また、巨大なタンクや醸造道具など、かつて実際に使われていた道具類が今も大切に保存され、通りのあちこちで目にすることができます。石畳の路地や格子戸の木造建築が織りなす光と影のコントラストは、どこを切り取っても絵になる美しさで、写真を撮る手が止まらなくなることでしょう。
現在もこの通りには、光武酒造場、観光酒蔵 肥前屋(峰松酒造場)、富久千代酒造の3つの蔵元が営業を続けており、それぞれが地元の米と水にこだわった酒造りを行っています。通りを歩いていると、時折酒の香りがふわりと漂い、ふと足を止めてしまうこともあるかもしれません。各酒蔵では見学ができるほか、季節ごとに変わる限定酒の試飲や販売も行われており、訪れた人々はその味わい深さに思わず感嘆の声をあげることもあります。中には、全国的にも高い評価を受けている銘柄もあり、酒好きにはたまらない場所です。
また、酒造りの文化を支えてきた町人や武家の暮らしぶりを今に伝える町屋や旧家も残されており、まるでタイムスリップしたかのような気分を味わえるのもこの地域ならではの魅力です。歩いて巡るだけで心が豊かになるような肥前浜宿酒蔵通りは、鹿島市を訪れる際にはぜひ足を運びたい場所のひとつです。
肥前浜宿酒蔵通り(佐賀県)
マップの散歩道