ビン玉ロード(三重県)

 三重県志摩市浜島町に位置する「ビン玉ロード」は、かつてこの地域で盛んだった漁業の面影を色濃く残す海辺の小径です。この道を歩いていると、海風に揺れる潮の香りとともに、懐かしさと温かみを感じる独特の雰囲気に包まれます。ビン玉とは、かつて真珠養殖や漁の際に使われていたガラス製の浮きで、網が絡めて使われていたものですが、今ではその役目を終え、アートとして新たな命を吹き込まれています。
 浜島町のこの散策道では、約1キロメートルにわたって、そのビン玉が街灯や装飾として巧みに並べられています。昼間に歩くと、陽の光を受けてキラキラと輝くガラス球が目に入り、どこか懐かしい港町の空気を感じさせてくれます。海の青とガラスの透明感が溶け合うような風景は、思わず足を止めたくなる美しさです。ですが、この道が最も心に残るのは、やはり夜の時間帯でしょう。
 夕暮れが近づき、空が茜色に染まり始めると、ビン玉の中に仕込まれたライトが次第に灯り始めます。緑や青、オレンジといった柔らかな光がガラス越しに漏れ出し、道全体を幻想的な光の帯で包み込んでいきます。この光景はまるで海中にいるかのような静けさと美しさを漂わせ、訪れる人々にとって忘れがたい時間となることでしょう。漁師たちがかつて海に出る際に手にしていた道具が、今ではこのように訪問者の心を照らす存在になっているという事実に、深い感慨を覚える方も多いはずです。
 また、海辺の散歩道としては起伏が少なく、誰でもゆったりと歩けることから、家族連れやカップル、地元の人々の憩いの場所にもなっています。風の音と波のさざめき、そして色とりどりの光が織りなす静かな夜の時間は、まさに志摩市ならではの魅力のひとつといえるでしょう。日常から少し離れた、心和む時間を求めている方にこそ訪れてほしい場所です。

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