福井県坂井市にある丸岡城は、戦国時代の情景を今に伝える日本有数の名城です。1576年、織田信長の重臣・柴田勝家の甥である柴田勝豊によって築かれ、越前の北部を守る要として大きな役割を果たしました。この地は加賀や越中への通路にあたり、軍事上の要衝とされたため、堅牢な構造と実戦的な設計が施されました。
丸岡城の天守は、全国に現存する12天守のひとつであり、その中でも最古の形式を残しているとされる貴重な建築です。木造の重厚な造りと、石瓦を用いた独特の屋根が特徴で、飾り立てることのない質実剛健な佇まいが、時代を越えた風格を感じさせます。天守最上階からの眺望は見事で、坂井市の町並みの向こうには、天候がよければ白山連峰を望むこともできます。
この城には「人柱お静」の切ない伝承が語り継がれています。幾度も崩れた石垣を安定させるため、ひとりの女性が犠牲となり城の基礎に埋められたという話です。この逸話は地元の人々の心に深く根付き、長く語り継がれています。春になると、まるでその魂を慰めるかのように、城の周囲には美しい桜が咲き誇ります。およそ400本の桜が植えられており、「日本さくら名所100選」にも選ばれるほどの景観です。
春の訪れとともに開催される「丸岡城桜まつり」では、日中の華やかな桜はもちろん、夜には幻想的な光の演出が訪れる人々を魅了します。約300本のぼんぼりに照らされた夜桜のなか、丸岡城天守にはプロジェクションマッピングが施され、歴史ある城と満開の桜が美しく調和し、まるで夢の中にいるかのような光景が広がります。昼と夜とで異なる趣を見せるこの時期の丸岡城は、まさに訪れる価値のある特別な場所です。
現在では、かつて隣接していた丸岡歴史民俗資料館は閉館となってしまいましたが、丸岡城そのものが語りかけてくる歴史の重みは変わることがありません。坂井市を訪れた際には、時を超えて立ち続けるこの城を、ぜひその目で、心で味わってみてください。
丸岡城(福井県)

コメント