長崎市東山手にある「オランダ坂」は、異国の雰囲気が色濃く残る街並みの中にひっそりと佇んでいます。この周辺には明治期に建てられた洋風の建物が点在しており、なかでも東山手洋風住宅群は、木造の下見板張りやベランダの装飾が印象的で、歩いているとまるで西洋の街角に迷い込んだかのような気分になります。坂の名前に「オランダ」とあるのは、江戸時代から明治時代にかけて、長崎の人々がヨーロッパから来た人々を広く「オランダさん」と呼んでいたことに由来します。実際にはオランダ人だけでなく、イギリス人やフランス人も含まれていたそうで、彼らが住んでいた東山手の居留地を通る坂道全体が、かつては「オランダ坂」と総称されていたとも言われています。
現在その名で親しまれているのは、特に活水学院の下に位置する坂や、活水坂、誠孝院前の坂などで、いずれも石畳が整えられ、どこか懐かしくも洗練された雰囲気が漂っています。坂道の途中には色とりどりの花々が咲き、レトロな街灯が並び、訪れる人の足を自然とゆるやかにさせてくれる不思議な魅力があります。活水学院は日本で最初の女学校として知られ、西洋文化を背景にした教育の場として多くの女性たちの歩みを見守ってきました。坂道を登ると学院の建物が見え、そのクラシックな佇まいが坂の情景とよく調和しています。
観光で訪れる人々にとっては、ただの坂道とは思えない独特の趣があり、歩くことで長崎の国際交流の歴史にふれるような感覚を味わえます。静かな空気の中に、明治の息吹や異国の気配がふわりと漂い、カメラを手にして何度も足を止めたくなるような情景が続きます。季節ごとに表情を変える石畳と、やわらかな坂の傾斜が、長崎の魅力をより深く感じさせてくれる場所のひとつです。
オランダ坂(長崎県)
