福岡県北九州市門司区にある門司港駅は、訪れる人々に時代を超えた趣と温かみを感じさせてくれる特別な場所です。1914年に「門司駅」として開業し、1942年に現在の名称へと改められましたが、その佇まいは大正時代から続く品格をいまも色濃く残しています。木造二階建ての駅舎はネオルネサンス様式で建てられており、左右対称の整った外観が「門」を想起させるような造形となっています。2019年には、6年をかけて行われた復元工事により、創建当時の姿が丁寧に再現されました。
現在も鉄道駅として使われているこの建物の内部では、列車の発着の音が響き、駅を利用する人々の往来が続いています。構内には「0哩(ゼロマイル)標」が設置されており、九州鉄道の出発点としての意味を象徴しています。また、太平洋戦争の終結後、多くの引揚者や復員兵がこの駅に降り立ち、祖国に戻った安堵の気持ちで水を口にしたという「帰り水」の場所も、当時の記憶を今に伝えています。そのすぐそばには、戦時中の金属供出を免れた「幸運の手水鉢」が静かに佇み、何気ない形の中に深い物語を秘めています。
駅舎の横には、かつて関門海峡を行き交っていた連絡船とを結んでいた「関門連絡船通路跡」が残されており、桟橋までの約100メートルが当時のままの姿をとどめています。今では海沿いの散策路として整備され、潮風を感じながら歩くと、駅と港が一体となって地域を支えていた日々が偲ばれます。門司港駅を訪れると、ただの交通拠点ではなく、時代ごとの人々の想いや営みを静かに受け止め続けてきた場所であることが伝わってきます。北九州市門司区のこの駅は、古き良き日本の息吹を体感できる数少ない空間のひとつです。
門司港駅(福岡県)
