愛媛県東温市に位置する滑川渓谷は、四国の山あいにひっそりとたたずむ自然の宝庫です。ここでは長い歳月をかけて水が岩を削り、独特の風景を創り出してきました。渓谷の入り口に立つと、すでに周囲は都会の喧騒とは無縁の静けさに包まれ、心が自然と落ち着いていくのを感じることでしょう。特に「ナメラ」と呼ばれる一枚岩の上を滑るように流れる清流の様子は、訪れた人々に深い感動を与えます。およそ1キロメートルにも及ぶこの岩盤は、雨風や流水によって磨かれ、まるで自然が造った彫刻作品のような風合いを見せてくれます。
川沿いの遊歩道は、苔むした岩や木の根があちこちに顔を出し、まるで自然の中に溶け込んでいくような感覚を覚えます。水の流れる音や風に揺れる葉の音が静かに響き、五感を通じて自然のリズムを感じられる時間が流れます。歩みを進めるごとに景色は変化し、苔やシダが生い茂るエリアに差しかかると、空気はひんやりと澄み、まるで別世界に迷い込んだような気分になります。
渓谷の奥へと進むと現れるのが「奥の滝」です。その滝を取り巻く岩の形状が、まるで巨大な龍が横たわっているように見えることから「龍の腹」と呼ばれるようになりました。水が岩肌をすべり落ちるさまは力強さと優美さをあわせ持ち、自然の造形美を実感させてくれます。滝壺の水は澄み切っており、季節によってはそのまわりに霧がたちこめ、幻想的な雰囲気を演出します。
滑川渓谷の魅力は、ただ風景が美しいというだけではありません。訪れた人の心をそっと解きほぐし、日常の慌ただしさを忘れさせてくれる、そんな力がここにはあります。四季折々で異なる表情を見せてくれるこの地では、春は新緑、夏は涼を求める清流、秋は色づく紅葉、冬はしんとした静寂と、何度訪れても新たな発見があります。愛媛県東温市に足を運んだ際には、ぜひこの静けさと力強さが共存する渓谷を歩き、その奥深い自然の魅力に触れてみてください。
滑川渓谷(愛媛県)

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