津和野町(島根県)

 島根県鹿足郡津和野町は、「山陰の小京都」とも称される風情ある町並みが残る地域で、訪れる人々に穏やかな時間を届けてくれます。町の中心部を流れる堀割には錦鯉が優雅に泳ぎ、その横を白壁土塀の武家屋敷や格子戸の商家が並びます。江戸時代の趣を色濃く残したこの町は、歩いているだけでも時代を遡るような気持ちにさせてくれます。
 特に殿町通り周辺では、津和野藩の城下町としての面影を今に伝える建物が立ち並び、伝統的な建築と自然が美しく調和しています。通りの中ほどには、明治の文豪・森鷗外の旧宅が残されており、彼が育った環境を垣間見ることができます。木造の平屋で、当時の暮らしぶりを感じ取れる資料や調度品が整えられています。
 町の西側には太皷谷稲成神社があり、千本鳥居が山の斜面を彩る光景は圧巻です。朱色の鳥居をくぐりながら進むと、やがて社殿にたどり着き、津和野の町を一望できる高台からの景色も楽しめます。この神社は、全国でも珍しい「稲成」の名を持つ神社で、商売繁盛や願望成就を祈願する参拝客でにぎわいます。
 また、津和野町はキリシタンの歴史とも深い関わりがあり、乙女峠には殉教した信徒たちをしのぶ記念碑や教会が建てられています。静かな山間のこの場所では、祈りの気配が感じられ、訪れる人に深い感慨を与えます。
 津和野駅から町の中心部までは徒歩圏内で、観光列車「SLやまぐち号」が発着する日には、蒸気機関車の汽笛が町に響き渡り、ノスタルジックな雰囲気がいっそう高まります。春には桜、夏には新緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、四季折々の美しさが津和野の魅力をより豊かにしてくれます。町のあちこちに設けられた小さな美術館や資料館、地元の味を楽しめる食事処なども充実しており、滞在するほどにその奥深さを実感できる場所です。

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