和歌山県東牟婁郡那智勝浦町に位置する熊野古道の一部である大門坂は、訪れる人々に深い感動を与える石畳の坂道です。この坂は、那智山のふもとから那智大社へと続く参詣道の一部であり、長い年月をかけて人々が踏みしめてきた歴史の重みを足元から感じることができます。坂の入口には、高さ55メートルに及ぶ樹齢800年の夫婦杉が並び立ち、そこをくぐり抜けて歩き始めると、一気に時の流れが変わるような感覚に包まれます。
周囲には杉や楠の巨木が立ち並び、枝葉が陽光を優しく遮り、涼やかな木陰をつくり出しています。石畳は苔むしており、雨の日にはさらに風情が増しますが、足元には十分な注意が必要です。道沿いには、かつて参詣者をもてなした茶屋跡や地蔵尊も点在しており、歩みを進めるごとに、そこに生きた人々の思いが静かに語りかけてくるようです。
この坂道は全長約600メートルと決して長くはありませんが、途中で振り返ると眼下に広がる緑の山々と那智の集落が目に入り、その景色がさらに旅情を誘います。また、着物姿で歩く体験を提供している店も近くにあり、平安装束に身を包んで坂を登れば、まるで時代をさかのぼるような気分を味わえます。そうした演出も、この場所ならではの魅力のひとつです。
坂を登りきると、その先には那智山の霊域が広がり、さらに那智の滝への道も続いています。大門坂は単なる道ではなく、人と自然、そして信仰が一体となった空間として存在しており、現代を生きる私たちにとっても心を整える場となっています。那智勝浦町を訪れた際には、ぜひゆっくりと時間をかけてこの道を歩いてみてください。石の一つひとつ、木々の一本一本が語る静かな物語に、きっと心を動かされることでしょう。
熊野古道大門坂(和歌山県)

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