常永久の鐘(三重県)

 三重県鳥羽市相差町にある菅崎園地の頂上、春雨展望台には、海と人々の絆を象徴する美しい鐘が設置されています。この鐘は「常永久の鐘(とことわのかね)」と呼ばれ、訪れた人々が思い思いの願いを込めて鳴らすことができる場所として親しまれています。ここでは、特に恋人たちが一緒に鐘を鳴らすと、互いの愛がいつまでも続くと語り継がれており、地元の人々にとっても、遠方から訪れる観光客にとっても、特別な意味を持つ場所となっています。
 しかしこの地には、それだけではない深い想いが込められています。今から100年以上前の明治44年11月、海軍の駆逐艦「春雨」が海上演習の帰途、志摩沖で激しい嵐に見舞われ、視界が奪われるなか菅崎沖の暗礁に乗り上げ、大破してしまいました。翌朝、相差町の村人が道に倒れていた乗組員を発見したことをきっかけに、村全体が動き出します。漁師たちは荒れる海に船を出し、海女たちは冷たい波をかき分けて泳ぎ、命がけで救助にあたったのです。この懸命な行動により、8人の命が救われました。
 その後、昭和12年にはこの丘に、春雨で命を落とした人々を悼む記念碑が建てられました。そのそばには、助かった乗組員が仲間を思い綴った歌が石碑に刻まれています。そして今でも、事故が起こった11月24日には、相差町の女性たちが御詠歌を唱えて亡くなった方々の霊を慰めています。
 春雨展望台から見渡せる海の眺めは素晴らしく、訪れる誰もが心洗われるような気持ちになりますが、この場所には勇気と献身、そして人々の深い思いやりが静かに息づいています。三重県鳥羽市相差町を訪れる際には、ただの景観だけでなく、そこに込められた物語にもぜひ耳を傾けてみてください。鐘の音が響くたび、かつての人々の行動が今もなお生き続けていることを感じられるはずです。

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