おかげ横丁（三重県）

　三重県伊勢市にあるおかげ横丁は、伊勢神宮・内宮の門前町に位置し、江戸から明治時代の風情を再現した情緒あふれる通りとして、多くの観光客に親しまれています。この場所は、伊勢神宮への参拝者をもてなす文化が長い年月をかけて育まれた土地であり、その精神を今に伝える場として整備されました。「おかげ横丁」という名は、「おかげ参り」という言葉に由来します。これは江戸時代に庶民の間で流行した伊勢参りの風習で、「おかげさま」の気持ちを込めて伊勢神宮を訪れるという意味合いがありました。
　現在のおかげ横丁は、平成5年に地域の企業と住民の協力によって整備され、往時のにぎわいを再現するために、伝統的な町屋建築を再現した建物が並びます。赤福本店をはじめ、伊勢ならではの老舗や土産物店、郷土料理の食事処が軒を連ね、歩くだけでもタイムスリップしたかのような感覚を味わうことができます。特に、伊勢うどんや手こね寿司、地元の海産物を使った軽食など、地元の食文化に触れることができる点も魅力の一つです。
　また、通りの中には職人の技を間近で見られる工房や、昔ながらの玩具や道具を展示する小さな資料館もあり、大人から子どもまで楽しめる工夫が随所に施されています。和太鼓や獅子舞といった催しが行われることもあり、訪れるたびに新しい発見があります。周囲には五十鈴川が流れ、川沿いの散策も気持ちよく、四季折々の自然の美しさとともに日本の伝統文化を体感できる場となっています。
　伊勢市を訪れた際には、ただ伊勢神宮をお参りするだけでなく、この門前町にも足を延ばして、かつての旅人たちが味わったであろう賑わいと温もりを、ゆっくりと感じてみてはいかがでしょうか。日本人の心のふるさととも称される伊勢の地で、過去と現在が静かに交わる瞬間に出会えるはずです。