犬山城(愛知県)

 愛知県犬山市に位置する犬山城は、国宝に指定されている日本最古級の天守を持つ城として知られています。この城は、戦国時代の天文6年(1537年)に織田信長の叔父である織田信康によって築かれました。当時、尾張・美濃の国境に近いこの場所は、軍事的に非常に重要な拠点であり、城の建設には大きな戦略的意図がありました。その後、城は時代とともにさまざまな大名たちの手に渡りながら、江戸時代には尾張藩の付家老である成瀬家の居城となり、明治維新を迎えるまで約260年にわたってその姿を保ち続けました。
 天守は木造で、現存する中でも特に古い様式をとどめています。内部は建設当時のままの造りを残しており、急な階段や細い通路など、防御を重視した構造が随所に見られます。城の最上階に上がると、木曽川の流れを眼下に望むことができ、その眺めは戦国武将たちが実際に見た景色に思いを馳せることができる貴重な体験です。また、川を利用した水運と防衛の仕組みも理解でき、当時の城づくりの知恵に触れることができます。
 さらに、城の周囲には趣ある町並みが残っており、犬山市の旧城下町エリアでは、白壁の土蔵や格子窓の商家など、江戸時代から続く風情ある景観が訪れる人々を迎えてくれます。地元の食文化や工芸品に触れながら、ゆったりとした時間を過ごすことができるのも、この地ならではの魅力のひとつです。特に春には桜が城の周囲を彩り、多くの観光客でにぎわいます。
 犬山城は単なる歴史的建造物にとどまらず、その地に息づく文化や人々の暮らしと深く結びついてきた存在です。犬山市を訪れる際には、ぜひ時間をかけてこの城とその周辺を歩き、その長い年月に育まれた豊かな物語に耳を傾けてみてください。

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