愛知県西尾市に属する佐久島は、三河湾に浮かぶ小さな島でありながら、訪れる人々に深い印象を残す場所です。かつてこの島は、漁業と農業を中心に暮らしが営まれてきた地域で、平安時代の記録にもその名が見られるほどの長い歴史を持っています。中世には修験道の修行地としても知られ、島の北側には今もその名残を感じさせる石仏や古道が点在しています。また、江戸時代には伊勢参りの途中に立ち寄る人々も多く、船の往来で栄えたことがうかがえます。
現代の佐久島は、伝統と創造が融合した独特の魅力を放っています。島全体が一つのアート空間のように整えられており、島内各所にはアーティストによる作品が点在しています。特に目を引くのが「おひるねハウス」と呼ばれる黒い箱型の建築物で、島の風景にとけこむように設計され、潮風に吹かれながらゆったりとした時間を過ごすことができます。こうした取り組みは、西尾市と芸術家たちの協力のもとで進められており、島に新たな命を吹き込んでいます。
さらに、島内には昔ながらの町並みが残されており、細い路地を歩くと、瓦屋根の家々や石垣が並び、どこか懐かしさを感じさせてくれます。地元の人々の暮らしぶりが今なお息づいており、旅人をあたたかく迎えてくれる雰囲気も佐久島の大きな魅力のひとつです。四季折々の自然も豊かで、春には野の花が咲き誇り、夏は海水浴や釣りを楽しむ人々でにぎわいます。秋には潮風とともに渡り鳥が舞い、冬は静けさの中で島の素朴な美しさを味わうことができます。
西尾市街から一色港を経由し、定期船でおよそ20分の距離にあるこの島は、日常から少し離れて心を落ち着けたいと願う人にとって、まさに理想的な場所といえるでしょう。都市の喧騒とは無縁のこの小島で、時の流れに身をゆだねながら、五感で自然と芸術を味わう旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。
佐久島(愛知県)

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