岐阜県中津川市に位置する馬籠宿は、かつて江戸時代に整備された中山道の宿場町の一つで、現在でもその面影を色濃く残しています。この地は木曽十一宿の最南端にあたり、山間の急斜面に沿って石畳の坂道が続く独特の景観が広がっています。訪れる人々は、まるで時代をさかのぼったかのような感覚を味わうことができる場所です。
馬籠宿は、江戸と京都を結ぶ重要な交通路の中継地として栄え、旅人たちの往来によって多くの文化や人々が交差する場所でもありました。特に幕府の参勤交代や商人の往復により、宿場としての機能はもちろん、文化の伝播にも大きな役割を果たしてきました。明治以降は宿場としての役目を終えましたが、その後も歴史的な街並みを守る取り組みが地元住民によって続けられてきました。
町並みを歩くと、石畳の坂道の両側には古い木造の家々が並び、旅籠だった建物や茶屋、資料館などが点在しています。坂道の上からは、晴れた日には恵那山を望む美しい風景が広がり、訪れる人々の心を和ませてくれます。また、地元の名産品を扱う土産物店や、五平餅などの郷土料理を提供する店もあり、歩くこと自体が一つの楽しみとなっています。
さらに、馬籠は文豪・島崎藤村の生誕地としても知られています。彼の代表作『夜明け前』は、この地を舞台にしており、宿場町の変遷や幕末から明治にかけての時代のうねりを描いています。藤村記念館では彼の生涯や作品に関する展示を見ることができ、文学に興味のある方にもおすすめのスポットです。
現在では、中山道を歩くハイカーにとっても人気の目的地となっており、特に隣の妻籠宿との間を歩くルートは、日本の原風景を体感できる道として国内外の観光客に親しまれています。季節ごとの風情も魅力の一つで、春の桜や秋の紅葉は格別です。時間の流れがゆっくりと感じられるこの中津川市の一角で、歴史と自然が織りなす静かな旅のひとときを味わってみてはいかがでしょうか。
馬籠宿(岐阜県)

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