岐阜県多治見市にある本町オリベストリートは、美濃焼の伝統と文化が息づく、情緒あふれる街並みです。この通りは、江戸時代から昭和初期にかけて商人たちが暮らし、陶器の取引が盛んに行われていた場所として知られています。美濃地方の陶磁器産業の中心地であった多治見市では、焼き物文化とともに発展してきた歴史があり、本町オリベストリートはその記憶を今に伝える大切な存在となっています。
現在の通りには、かつての商家や蔵が当時の風情を残したまま整備され、ゆったりとした時間の流れる空間が広がっています。白壁と格子戸が連なる建物には、陶器店やカフェ、ギャラリーが並び、訪れる人々をやさしく迎えてくれます。とりわけ、明治から昭和初期に建てられた町家を活かした店舗が多く、店内に足を踏み入れると、懐かしさと新しさが共存する不思議な感覚に包まれます。
この通りは、陶芸家・古田織部にちなんで名付けられました。織部は戦国から江戸初期にかけて活躍した武将でありながら、茶人としても知られ、斬新で自由な美意識をもって茶の湯と陶芸に大きな影響を与えました。オリベストリートという名前には、そうした織部の精神が今も息づいているという思いが込められています。
歩いていると、至るところに焼き物を取り入れた装飾やインスタレーションが見られ、足元のタイルや壁の装飾にまで美濃焼の意匠が施されています。まるで通りそのものが一つの陶芸作品のようで、日常の中に美が息づいていることを実感できます。春や秋には地域のイベントも開催され、地元の人々と観光客が交流する姿も見られ、温かみのある街の雰囲気を感じることができます。
多治見市の本町オリベストリートは、ただの観光地ではなく、焼き物を中心に人々の営みと文化が融合した、静かな魅力をたたえる場所です。歩くたびに新しい発見があり、訪れる人それぞれが、自分だけの時間を楽しむことができる、そんな特別な空間となっています。
本町オリベストリート(岐阜県)

コメント