根尾谷淡墨桜(岐阜県)

 岐阜県本巣市にある根尾谷淡墨桜(ねおだにうすずみざくら)は、日本三大桜のひとつにも数えられる、非常に名高い桜の木です。この一本桜は、樹齢およそ1500年とされ、継体天皇がまだ皇子であった頃、自らのお手植えによるものと伝えられています。長い年月を経て、幾多の時代の移り変わりを見届けながらも、今なお毎年春には見事な花を咲かせています。
 淡墨桜という名の由来は、その花びらの色の変化にあります。開花直後は薄紅色で、満開時にはほぼ白に変わり、やがて散り際には淡い墨を流したような独特の色合いに染まっていくのです。その変化は見る者の心に深く染み入り、どこか儚くも美しい印象を与えます。この優雅な色の移ろいが、根尾の地を訪れる多くの人々の心をとらえてやみません。
 この桜が立つ根尾谷は、かつて大地震や豪雪に見舞われたこともあり、木は一時、枯死の危機にさらされました。しかし、地元の人々の尽力によって幹の治療や保護が行われ、今日に至るまでその姿を保ち続けています。特に昭和の初期には、当時の文部省技官であった笹部新太郎氏らによって保存活動が進められ、そのおかげで淡墨桜は再び花を咲かせることができました。
 毎年春になると、本巣市の根尾地区には多くの花見客が訪れます。淡墨公園内に立つこの桜の周辺は、季節限定で桜まつりも開かれ、屋台や地元の特産品の販売などでにぎわいます。ライトアップが行われる日もあり、夜のとばりの中で照らされる淡墨桜は、昼間とはまた違った幻想的な姿を見せてくれます。
 さらに、公園の近くには、さくら資料館が設けられており、桜にまつわるさまざまな資料や写真を通じて、その長い歩みを知ることができます。春の一時を、ただ花を眺めるだけでなく、この地に根ざした歴史や人々の思いに触れながら過ごすことができるのも、訪れる者にとって大きな魅力となっています。
 本巣市根尾のこの桜は、単なる自然の景観としてではなく、長い年月を生き抜いてきた象徴として、多くの人々の心に深く刻まれているのです。

コメント