海野宿(長野県)

 長野県東御市に位置する海野宿(うんのじゅく)は、江戸時代に中山道の脇街道である北国街道の宿場町として栄えた地域です。戦国時代には、名族・海野氏の本拠地として知られ、その名残は今も町のあちこちに見られます。江戸時代に入ると、参勤交代や物流の重要拠点となり、多くの旅人や商人で賑わいました。現在も、当時の面影を色濃く残す町並みが約500メートルにわたって続き、伝統的な木造建築が美しく整備されています。
 この町並みの特徴は、職人の手によって丁寧に造られた格子戸や、白漆喰のなまこ壁に見ることができます。また、屋根の上に設けられた「うだつ」も当時の建築様式をよく伝えており、かつての住民の暮らしや身分意識の一端を垣間見ることができます。建物の多くは江戸時代後期から明治時代にかけてのもので、酒屋や薬屋などの商家が連なっていた様子がわかります。現在は一部が資料館やカフェ、工芸品の店として活用され、観光客も当時の生活や文化を身近に感じることができます。
 また、春と秋にはしっとりとした風情の中に桜や紅葉が彩りを添え、四季折々の景観を楽しむことができます。町の中央を流れる湯川にかかる小さな橋からは、絵葉書のような景色を望むことができ、散策の途中に足を止めて写真を撮る方も多く見られます。訪れる人々は、まるで時代を越えて江戸の世界に迷い込んだかのような感覚を覚えることでしょう。
 さらに、近隣には温泉地やワイナリー、りんご畑など、自然や食の魅力も豊富で、海野宿を中心とした滞在型の観光にも適しています。東御市ならではの風土と人々の温かさが、訪れる者の心を和ませてくれる場所です。歴史の香りが漂うこの静かな町を歩くことで、古き良き日本の暮らしにそっと触れることができます。

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