戸隠（長野県）

　長野県長野市にある戸隠（とがくし）は、神話と自然が調和する神秘的な地域として知られています。この地は、古くから日本神話に登場する「天岩戸（あまのいわと）」伝説に深く関わっています。天照大神が天岩戸に隠れた際、その扉を力強く投げ飛ばした神がいたとされ、その岩戸が落ちた場所が戸隠であるという伝承が残されています。この神話にちなんで創建されたとされる戸隠神社は、約2000年の歴史を誇り、五社からなる構成で訪れる人々を迎えています。
　特に奥社（おくしゃ）への参道は荘厳な雰囲気を持ち、随神門をくぐると樹齢400年を超える杉並木が道の両側に続きます。まっすぐに伸びた杉の木々に囲まれながら歩くその道のりは、まるで神域へと導かれているかのような感覚を味わえます。奥社には、天手力雄命（あめのたぢからおのみこと）が祀られており、力や勝負の神として信仰を集めています。また、中社、宝光社、火之御子社、九頭龍社といった他の社もそれぞれ異なる神を祀り、戸隠の信仰文化の深さを今に伝えています。
　自然環境もまた訪れる価値があります。戸隠高原は四季折々の表情を見せ、春には新緑、夏は避暑地としての涼しさ、秋は燃えるような紅葉、冬にはスキーやスノーシューで雪景色を楽しめるなど、一年を通して様々な体験が可能です。特に鏡池は、周囲の山々を水面に映し出すその静かな佇まいから、写真愛好家にも人気があります。山歩きを楽しむ人には、戸隠連峰の登山も魅力的で、迫力ある岩山と絶景が広がります。
　そして、戸隠そばはこの地を訪れたらぜひ味わいたい名物です。冷涼な気候と清らかな水で育ったそばは、風味豊かで喉越しも良く、多くの旅人の舌を楽しませています。地元のそば店では、伝統的な「ぼっち盛り」と呼ばれる独特の盛り付けで提供され、目でも舌でも戸隠の味を堪能することができます。
　長野市戸隠は、神話の息吹が今なお感じられる特別な場所です。古の物語と雄大な自然、そして心を満たす食文化が織りなすこの地を、静かに歩きながらじっくりと味わっていただきたいと思います。