地獄谷野猿公苑(長野県)

 長野県下高井郡山ノ内町に位置する地獄谷野猿公苑は、標高850メートルほどの山間にあり、寒さの厳しい冬には積雪が1メートルを超えることも珍しくありません。この場所が注目を集めるようになったのは、温泉に入るニホンザルの姿が世界中で紹介されたことがきっかけです。まるで人間のように湯船に浸かり、気持ちよさそうに目を閉じるサルたちの姿は、多くの観光客の心をとらえてきました。
 この地にサルたちが現れるようになったのは昭和30年代のことです。もともとこの周辺には多くのニホンザルが生息しており、人里にも姿を見せては農作物を荒らすなど、人間との軋轢もありました。そうした中で、地元の人々がサルたちの行動を観察し、彼らのための専用エリアを設けて共存の道を模索したのが、地獄谷野猿公苑のはじまりです。そして昭和39年(1964年)に公苑が開苑されて以降、サルたちは自然な形でこの地に通うようになり、現在では一日100匹以上のサルが訪れることもあります。
 特に冬場の光景は非常に有名で、温泉に浸かるサルたちを見るために、国内はもちろん、海外からも観光客が訪れます。白銀の世界の中、湯気立ちのぼる温泉に身を沈めるサルの姿は、他ではなかなか見られない光景です。彼らは野生でありながら人間を恐れる様子は少なく、間近でそのしぐさや表情を観察することができます。
 公苑へは、山ノ内町の湯田中温泉や渋温泉からアクセスするのが一般的で、最寄りのバス停からは山道を30分ほど歩いて向かいます。そのため、冬場はしっかりとした防寒と滑りにくい靴が必須です。この少し手間のかかる道のりもまた、訪れる人にとっては自然と一体になれる特別な体験となっています。
 自然と動物と人間が穏やかに交差する場所、地獄谷野猿公苑は、山ノ内町が誇る唯一無二の魅力を持つ観光地として、多くの人々に愛され続けています。

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