長野県下高井郡山ノ内町に位置する湯田中渋温泉郷は、志賀高原の山あいに広がる風情ある温泉地で、古くから湯治場として多くの人々に親しまれてきました。平安時代にはすでに温泉の存在が記録に残されており、以来、戦国武将や文人墨客にも愛された地として知られています。江戸時代には善光寺詣での途中に立ち寄る湯宿としても栄え、多くの旅人たちの疲れを癒してきました。なかでも渋温泉の石畳の小路沿いに軒を連ねる木造旅館群は、今も昔ながらの情緒を色濃く残しており、浴衣姿でそぞろ歩きを楽しむ光景が似合う、懐かしさを感じさせる空間となっています。
湯田中温泉には、近代的な宿泊施設も多く整い、観光拠点としての機能も充実しています。ここからは志賀高原や地獄谷野猿公苑など、自然とのふれあいを楽しめるスポットへのアクセスもよく、四季折々の風景を求めて訪れる人々が後を絶ちません。特に冬場には雪景色のなかで温泉に浸かる日本猿の姿が見られることで世界的にも有名となり、海外からの観光客も多く訪れます。地域全体で温泉文化を守りながら観光に力を入れているため、案内所や足湯、共同浴場なども整備されており、誰でも気軽に湯の恵みを楽しむことができます。
また、渋温泉には九つの外湯が点在し、それらを巡ってすべて入浴すると無病息災のご利益があるとされています。宿泊者には鍵が渡され、一般には開放されていない湯船にも入ることができるのが魅力です。地域住民が大切に守ってきた湯の文化が、訪れる人々にもやさしく開かれていることが、ここの大きな魅力といえるでしょう。町の人々のあたたかいもてなしの心と、信州の豊かな自然、そして長い年月をかけて育まれた温泉の恵みが調和した湯田中渋温泉郷は、まさに心と体を癒すための特別な場所です。
湯田中渋温泉郷(長野県)

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