石川県加賀市に位置する山中温泉は、1300年の長い年月を誇る由緒ある湯の里で、古くは奈良時代の高僧・行基によって発見されたと伝えられています。その湯は「扶桑三名湯」の一つに数えられ、江戸時代には俳聖・松尾芭蕉も訪れ、その美しい自然と湯の魅力を詠んでいます。芭蕉が滞在した折に詠んだ句や足跡は今も温泉街に残り、旅人を時を超えた情緒に誘います。
山中温泉の中心を流れる大聖寺川には、鮮やかな赤色が印象的な「あやとりはし」が架かり、周囲には四季折々の自然が広がっています。特に春の桜、秋の紅葉の時期には、川沿いの散策路「鶴仙渓遊歩道」が多くの人でにぎわい、深い渓谷と澄んだ流れを眺めながらの散歩は格別の体験となります。渓谷にかかる「こおろぎ橋」は、その名の響きとともに風情を感じさせ、山中温泉の象徴ともいえる存在です。
また、山中温泉は伝統工芸でも知られており、漆器の産地として名高い「山中漆器」は、木地づくりの技術が高く評価されています。職人たちの手によって丁寧に作られる器は、美しさと使いやすさを兼ね備えており、お土産や日常使いとしても人気があります。温泉街にはこの漆器を扱う店舗や工房が点在しており、制作の様子を見学できる場所もあります。
さらに、温泉街には老舗旅館や現代的な宿泊施設が立ち並び、それぞれに趣向を凝らした料理やおもてなしを提供しています。加賀市ならではの山海の幸をふんだんに取り入れた懐石料理や、地元の銘酒とともに味わう夕食は、訪れる人々の五感を満たしてくれます。情緒ある街並みを歩きながら、湯に癒され、文化に触れ、自然に包まれる――そんな贅沢なひとときを楽しむことができるのが、山中温泉の魅力なのです。
山中温泉(石川県)

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